
長野県、南信州の伊那盆地。夏はからっと乾燥した気候で、風通しもよく、アルプスからの美しい伏流水の恵みもあって、蚕の生育には最適な場所です。勝山織物の桑畑は、そんな場所にあります。
極上の絹糸を作るために。養蚕からモノ作りを行う勝山織物の駒ヶ根での四季の風景を、現地の作業に実際に参加しながらレポートします。第一回目は、桑の苗付け。今世紀中はおそらく最後となる、養蚕の根源となる重要な作業の一つです。
(text by kyotostyle ナイキミキ)
南信州へ。桑の植え付けをお手伝い〜1
3月25日(日)
京都を早朝6時半に出発。前日からの雨で「桑植えができるのか?」と、不安に思いつつ中央道をひた走ります。社内のラジオの中で、能登の地震を知りました。長野も震度3。
11時過ぎ。駒ヶ根に到着。早速、植え付けを行う桑畑を下見に。畑の敷地は45r。やっぱり。だいぶ、土がぬかるんでいます〜。
この日は「特選きものサロン」の方が、東京から取材に来てくださって。その撮影がてら、何本か実際に桑の木を植えてみました。溝に藁をまき、肥料をまいて、土をかぶせ寝かせる。このような下準備が、すでに一週間かけて行われています。この溝にそって、約50cm間隔で、一本一本丁寧に植えていくのです。まぁ、今日は明日の本番に向けてのウオーミング・アップというところで。
植える桑の木は3200本。「ねずみがえし」という、上田産の在来種を準備したといいます。江戸中期に改良された「ねずみがえし」は、生育に手間がかかり生産性も低いために、今では貴重な品種となってしまっているとか。もともと桑の木は、どんな土地にも適応し、それが日本の養蚕業が発展した理由の一つでもあるのですが、この種に限っては適応範囲が狭いそうで。だから、非常にデリケートなのです。
ねずみが登ってこられないように、枝が反り返っているのが特徴。葉は小ぶりながらも硬く、イメージでいうとシャキシャキ歯ごたえ!といった感じなのでしょうか。蚕も人間と同じグルメなのです。食べ物が悪いと、良い糸をはきません。それは後々の染〜織まで、すべての工程に影響を及ぼすことだというのです。でき上がった糸や織物を見て、そんな事には思いも及びませんでした。「すべてにおいて気をくばる」。勝山さんのそんなこだわりが、隅々にまで貫かれている事を実感するのでした。
ただただ感心するばかり。これでより一層、明日の植え付けが楽しみに。その前に、温泉でもつかってパワーチャージ。この日は、最近出来たというこじゃれたホテル「駒ヶ根スプリングス」に泊まります。
南信州へ。桑の植え付けをお手伝い〜2
3月26日(月)
昨日とはうってかわって、爽快な晴天。絶好の農作業日和です!
朝食をたらふく食べて、畑へ。工房の責任者である志村さんやスタッフ、
また地元の桑農家や農協の人などなどが集まって、総勢15名はいるでしょうか。
様々な人達の協力を得て、今日中に、一気に桑の木を植えてしまいます。
実は鍬などを持つのは始めてです。50cm(かなり正確に!)の間隔に、
木を垂直に植えていかなければなりませんが、これが結構ムズカしい。
まず、間隔。これが狭いと木が成長したときに、枝がぶつかり合ったり。
逆に広いと、日が当たりすぎて良くない。鍬の柄に目印にテープをはり、それを目安にします。
しかも。木の根っこはほぼ直角にまがっているため、
少し山を作りその斜面に根っこを安定させるようにしてから、両側の土を一気に掛けて踏み固めます。
それを省略すると、斜めになったり、右左にぶれたり。
私がやるとジグザクになり、なかなか整った列はできません。
名人の植えた桑の木は、美しく一列に並んでいるのですが。さすが!です。
途中、青空の下でお弁当を食べて。
午後になると、作業に熱中し、皆黙々と。。地元ケーブルテレビ、エコーシティー駒ヶ岳さんも取材に見えて。
80本は植えたのでしょうか。なんと夕方前には、すべて植え終わりました!
今回植えた桑の木は、1年に2〜3度の枝打ちを行い、4、5年ほどかけて成長するそうです。
それを蚕に与え、糸にして織物になるまでの道のりは、果てしなく遠いのです。
ここからとれる糸は、わずか25着分の着物に相当する分にしか過ぎません。
また、枝打ちした枝や葉は、燃やして灰に。肥料代わりに土に戻したり、染色の際の灰汁にしたり。
すべてを無駄無く利用しているのです。
ちなみに桑の葉は、お茶として飲めるそう。桑の実もマルベリーといって、ジャムなどにするとおいしいそうですよ。
先行して植えてある桑の木が、葉っぱを茂らすのは5月の下旬。次の作業は,いよいよ春繭の飼育です!